はじめに
この記事を読んで下さっている方は、
「ペン回しが上手くなっている」
という実感がありますか?
「大会で優勝したい」
「JapEnに出たい」
「世界記録を出したい」
など、 目標の方向性やレベルは人によって違うと思いますが、もっと上達したい、という思いは誰しもが持っているはずです。
しかし、 どれだけ練習しても上手くならない、 納得のいくペン回しができない、 自分のペン回しが評価されない、 と悩んでいる人もきっとたくさんいることでしょう。
この記事は、私のような「ペン回し上達に悩む人」に向けて、科学的に良いとされている上達法を参考にしつつ、 上達するための練習方法について考察した記事です。
1.伸び悩みの話
本題に入る前に、少し私の話をします。
初心者から中級者への入り口ぐらいだったと思います。 簡単な技を覚えて、FSを組んでみて、もっと個性を磨いてCVに出たい、と思って撮影してみたときに、 トップレベルのスピナー達と自分との間には、大きな大きなレベルの差があることに気付きました。
すぐに解決できない、大きすぎる課題がいくつも見えてきて、何からどう手をつけたら良いのか分からなくなりました。
気付いたときには目的地を見失っており、いくら続けてもほとんど成長できない状態になっていました。
たぶん、この状態が何か月も何年も続いていたと思います。
学生時代に一度ペン回しをやめましたが、やめる前からこの壁に当たっていたことは薄々気付いていました。
時間が経てば解決するようなものではなく、当然のように、復帰してからも同じ壁に当たりました。
練習法について考え続けた結果、上達を阻害していたとある要因に気付いて、進む方向が少しずつ見えてきたと感じています。
上手くなれずに悩んでいる人たちへのヒントになればと思い、記事を書くことにしました。
2."限界的練習"とは何か
ある日、一冊の本に出会いました。
「超一流になるのは才能か努力か?」
という本です。
30年以上に渡り、あらゆる分野の超一流のパフォーマンスを科学的に研究してきた著者が、 "トッププレイヤー全てに共通する練習法" があることを発見し、それを「限界的練習」と名付けた、という内容になっています。
この本の内容を私なりにペン回しに当てはめるとこうなります。
・生まれつきペン回しが上手くなることが決められていた、という人は一人もいない。
・ペン回しが上手な人は、この練習法を必ずたくさん行なっている。
正直に言えば、私にはペン回しの才能が無いのかなと悩むことがありました。
しかし、この本を読んで、その考えがはっきり間違っていることが分かりました。
足りなかったのは、練習の質と量ということです。
また同時に、いくつかの点で「限界的練習」とかけ離れた練習をしていることに気がつきました。
本書では、この「限界的練習」から離れてしまうと、成長が止まってしまうことが説明されています。
ペン回しで具体的に例えるなら、大技を10回できる人が、3~4回など、その人にとって限界ではないレベルで回すことをいつまでも続けたとしても、20回、30回と回せるようにはならない、ということだと思っています。
「限界的練習」の詳細はぜひ本を買って読んでみてほしいです。
3.「限界的練習」のペン回しへの応用
ここからが本題です。
もしかしたら、本を読んだだけで、自分の練習方法を見直すことができる方もいるかもしれません。
あるいは、自分の取り組み方が正しかったと思う方もいるかもしれません。
でも、私はそうはなりませんでした。
本を読んだことで、自身の練習方法が間違っていることは、はっきりと分かりました。
しかし、正しい練習方法、つまり「限界的練習」を正しくペン回しに適用する方法が分からなかったのです。
この本では、あらゆる分野に応用できる練習法であると説明されているものの、厳密には、効果的な練習法が確立された分野で、コーチなどの指導者の指導の下行うものとなっています。
もちろんペン回しには、上手い人が近くにいるという特殊な場合を除き、コーチなど存在しないですし、練習法なども確立されていません。
目標との違いを見つけてフィードバックしようとしても、そもそもの目標、どこに向かっていけば「上手くなれるのか」、どこが自分の悪いところなのかが分からないので、フィードバックのしようがありません。
結局、本を読んだだけでは、効果的なペン回しの上達方法を見つけることができませんでした。
きっと、上手い人にたくさんアドバイスをもらうというのが最強なんだと思います。 けど、そんな環境にいることは稀です。
教えてくれる人がいない前提で、どのような練習をすれば「限界的練習」に近付いた練習になるか、ということを考えました。
そして、ある一つの練習方法が、この練習法に則したものであることに気が付きました。
それは、
「自分が良いと感じる人のフリースタイル・回し方・構成・コンボ・技などを、"そっくりそのまま"コピーする」
というものです。
これは、単にFSをなぞれば良い、ということではなくて、"そっくりそのまま"というのが重要と考えています。
・同じテンポで回す
・同じ手の動きで回す
etc...
言い換えれば、その人の回しをそのまま再現するということです。
誰かにその回しを見せて、コピー元と見間違われるレベルを目指すということです。
"そっくりそのままコピー"が「限界的練習」に沿っている理由
なぜそのままコピーすることが正しい練習と考えたのか、その理由を説明します。
◆コピー元の動画が指導者の代わりになる
楽器やスポーツの練習であれば、本人が気づいていない間違いを指導者が指摘できますが、ペン回しはそうはいきません。
場合によっては、周囲から見れば間違いと感じているものを正しいとずっと思いこんでしまうことも考えられます。
ペン回しには絶対の正解なんてものは存在しませんが、その人にとって「良いと感じる、お気に入りのコンボやFS」というのは、その人にとっての正解になり得ます。
その正解の動画と自分自身の動画を比較することで、自身が気付いていない間違いや悪い癖に気づくことができるようになります。
これが、指導に相当すると考えています。
◆ゴールと現在地点が明確になる
「限界的練習」ではゴールが明確である必要があると私は考えています。
技のレパートリーや回数を増やす、などであればゴールは分かりやすいのですが、FSとなると目標がどこにあるのか分かりません。
"そっくりそのままコピー"をすると、そのコピー元の動画がまさにゴールそのものになり、自分自身と比較することで現在地点も見えてくるので、どこに向かえばいいかと悩む必要がなくなります。
◆コピーする過程で、いわゆる「心的イメージ」が作られる
コピーをしようと思うと、自然と完成形のイメージを描いて回すことになります。これが、「限界的練習」でいうところの「心的イメージ」に相当するのではと考えています。
本で語られている「心的イメージ」を私なりに解釈すると、指やペンの感触・感覚まで含めてはっきりとイメージされた映像が自分の頭の中にあり、そのイメージと実際のペンの動きがリンクする状態を目指す、ということになると思います。
コピーできている「つもり」の罠
ここで一つ、気をつけなければならないポイントが存在します。
それは、””決して自分流にアレンジしてはいけない””ということです。
例えば、
・自分はこの技ができない・苦手だから、自分の得意な別の技に置き換えよう
・自分はこういうスタイルで回すから、スタイルや回し方は変えないまま技だけコピーしよう
などです。
なぜアレンジしてはいけないのでしょうか?
それは、「できていないところを見直してフィードバックする」ということを行っていないからです。
本家にはできて、自分にはできないところを探し、それを修正するよう全力で取り組むことが練習の目的です。
コピーすること自体が目的ではないのです。
「コピーは良い練習」というのはウマコテ達が揃って言うことで、 私も、この練習法を考える前からコピーはずっとしていましたが、上手くなることができずに悩んでいました。
なぜ上手くいかなかったのか、それは、このアレンジを行ってしまっていたからだと思っています。
この練習法を始めると、最初は本家が全然再現できなくて、自分の下手さに打ちひしがれることがあるかもしれません。
でも、それは当然のことで、コピーをする元の動画というのは大抵の場合、 たくさんの練習を重ねた人が、何時間もかけて撮影した至高の作品であるわけです。
そんな動画をすぐにそのままコピーできる実力があるのだとしたら、既にその人よりも評価されていることでしょう。
どんな小さなことであっても、コピー元に近づける練習でさえあるならば正解となるので、 手の届きそうなこと、少し指の形を変えるとか、少しタイミングを変えるとか、そういうことを見つけて練習するのがよいかもしれません。
大事なのは、FSをなぞって満足するのではなく、一つのことが上手くいったら今度は本家と違う点を探し、 本家に近づけるよう努力する、というループを延々と繰り返すことだと考えています。
そのままコピーなんてことをしたら、個性が消えるのでは?
もしかしたら、このように思う人がいるかもしれません。
「そっくりそのままコピーしたら、自分の個性やスタイルが失われてしまうのではないか?」
「そっくりそのままコピーしたとして、それをそのままCVや大会には出せないし、その人のマネと言われてしまうのではないか?だとしたらそのコピーは無駄なのでは?」
「構成を学ぶのが目的なのだから、コピーするとしても自分の回し方のスタイルは変えずにコピーするのが適切」
一見、妥当な考え方に見えます。
実際、私が自分流を捨てずにコピーをしたのは、こういう考え方が根底にあったからです。
ここまで、そっくりそのままコピーをすることを推奨してきましたが、 私は、誰かの物まねで似たような技を似たように行うことで、唯一無二の作品が出来上がるとは思っていません。
誰も見たことのない技やコンボ・見栄えのあるFSを、どこにも隙のない完成度で行うことこそ理想のペン回しだと思っています。
それでも尚、最高のペン回しに到達するための近道は 「上手い人をそっくりそのまま真似すること」 だというのがこの記事の主張です。
良く考えてみれば、自分の練習法や回し方が正しいのであれば、既にもっと活躍できているはずで、 上手い人達が気づいていること、当たり前のようにやっていることに気付けてないか、 気付いてもそれを行う実力がないから下手なままなわけです。
自分より評価されている人というのは、少なくとも自分より、ペン回しが上手いとされるポイントに多く気づいており、 その人に近い目線に立って、自分が気付いていないそのポイントに気付くきっかけを得る手段が、"そっくりそのままコピー"になるわけです。
自分流で練習しても上達しないことはないと思いますが、ペン回しの動きには、腕や手の動きから、回すスピード、力の入れ方などなど、気を付けるポイントが無数にあります。
さらに、ペン回しの技は山のようにあり、組み合わせは無限大です。 その中から一人で良いポイントを探し出して磨くということは、砂浜の大量の砂から、ばらばらになった金の粒を探すようなもので、時間が非常にかかるか、一生かけても到達できないものになってしまうと思います。
先人たちが考え、少しずつ固め、開拓してきた道を使わない手はないでしょう。
しかし、ここまで読んでも、どうしても自分流を捨てきれない人がいると思います。というより、私自身がそうでした。
他には、こんな記事を書いて、二番煎じしかできない個性の無い若手を増やすな、そう思う人もいるかもしれません。
そのような方に見てほしい動画があります。
プロのイラストレーターのYoutubeで、イラスト上達法について解説した動画です。
この動画の中で、
「誰かの絵柄をマネしてオリジナル作品を作り、本家の違いをフィードバックすることを繰り返す」
という練習法を紹介されています。
そして、ここからが重要なポイントですが、
「そんな練習をしたらオリジナリティがなくなってしまうのでは?」
という質問への回答が用意されています。(21:08~)
プロのイラストの世界というのは、一定の実力に加え、
「この人にイラスト作成をお願いしたい」「この人でなくてはいけない」
という大きな個性が無ければ仕事がもらえない厳しい世界だと思います。
この方の名前で検索してもらえれば分かると思いますが、個性的でとても素晴らしい作品ばかりです。
その方が、先ほどの質問への回答として、
「マネをして個性が無くなる心配はしなくて良い」
と言っています。
※この練習方法は限界的練習に則した練習だと思います。 私自身はイラストは全く描きませんが、ペン回しに限らず、様々な分野に適用できるものと思っています。 記事を読み終えたら、ぜひ最初からじっくり観てほしいです。
"そっくりそのままコピー"を実践したときに、どれだけ頑張ってみても、いくら努力しても、 本家に近づけられない部分・変えられない部分というのが出てくると思います。 構成にしても、指使いにしても、その最後に残った部分が「個性」なのかもしれません。
個性を出すために、個性を消すよう努力する必要がある、というのが不思議ですが、 悪い癖が残っていて、かつそれを自覚できていない状態のまま、個性を追求しても個性は出せない、ということかもしれません。
コピーをしてみて「個性が足りない」と言われたら、個性が足りないのではなくて、まだ十分にコピーしきれていないということだと思います。
さらにコピー元の動画を研究して、自分と違う点を探してみましょう。
上手な人からたくさんのものを盗めた人が、より早くウマコテになれるのだと思います。
まとめ
ここまで練習方法を紹介してきましたが、この練習、やってみるとめちゃくちゃきついです。
自分のできていないところを明確に指摘し、できないことを全力でできるようにする、ということが心地良いはずもありません。
しかし、それこそがいわゆる「コンフォートゾーン」から抜け出し、最速で上達するためのカギなのだと思います。
楽しいという感情があるとすれば、それは、できなかったことができるようになった瞬間だけです。
それでも続けられるのは、何が何でも上手くなりたい、というモチベーションがあるからでしょう。
この記事を要約すると、以下のようになります。
・ウマコテが皆おすすめする「コピー」は、科学的にも良い練習法と言えそう。
・FSをなぞるだけがコピーではない。
・上手い人と自分の違いを見つけ、修正することがポイント。
・自己流を捨て、本家を忠実に再現することが重要。
・自己流を捨てても個性は無くならない(らしい)。
一言でまとめるならば、
「成長に悩んだときは、いったん自分が積み上げたものを捨てて、全力で上手い人のマネをしてみてもよいかも?」
ということです。
この記事が、上達に悩む人たちのヒントになれば幸いです。